葉山でひときわ目立つ邸宅、加地邸。
国の登録有形文化財として指定されているこの邸宅は、建築家・遠藤新の設計で、1928年(昭和三年)に竣工した建物であり、彼の住宅作品の中で最も貴重な作品とされています。
住宅遺産トラストさん発行の書籍「加地邸をひらく – 継承をめざして」に詳しく紹介されているので、ここから建築のエッセンスをご紹介していきます。
葉山 加地邸
・所在 神奈川県三浦郡葉山町
・竣工 1928年(昭和三年)
・構造 木造(一部RC造)
・設計 遠藤新
・延べ床面積 364.38平方メートル(ただし宿泊可能面積は200平方メートル)
加地邸コラム 〜 建築のエッセンス編 〜
遠藤新は、フランク・ロイド・ライトが旧帝国ホテルの建設のため来日した際に、若干28歳でチーフアシスタントとして参加し、その後もライトによる日本国内の全ての建築を実施設計者として支えました。建築家として独立した後も、師と仰ぐライトの建築手法を継承しつつ、建築から家具・照明器具にいたるまで全てを手がけるスタイルで、独創的な建物を作りつづけました。
この加地邸は、遠藤新が三十代後半に手がけた作品です。この後には甲子園ホテル、白金の家(建主は同じ加地利夫)と続き、満洲での仕事も始まるなど、建築家として脂の乗った時期の作品でした。
建主の加地利夫は、1918年(大正七年)に三井物産ロンドン支店長となり、重役、監査役を歴任し、大正海上火災保険の重役も務めた実業家でした。利夫の妻、壽(やす)も建築の設計に興味があり、遠藤新と打合せをしながら設計を変更していったそうです。
加地邸でまず目を引くのは、ふんだんに使われている大谷石の、柱や壁の美しい意匠。間取りはL字型で、暖炉と吹き抜けのある居間を中心に東西に中二階を配置し、長手側に寝室・玉突室・サンルーム、短手側には食堂が配置されています。居間の奥(北側)の玉突室には、天井の高低差を利用して葉巻・煙草の煙を自然に排気する換気口が設けられています。居間の先の扉を開けるとサンルームで、そこから大谷石のテラス、芝庭へと、水の流れのように自然にいざなわれるように計画されています。
加地邸は遠藤新の作風の折り返し地点とも言える建築で、それまでのプレーリーハウス的な作風の最終作品であるとともに、以降の甲子園ホテル、満洲中央銀行倶楽部などにつながる要素や空間構成も多々見られ、分水嶺に位置づけられる作品です。大正から昭和初期にかけて流行した「ライト式」「ライト風」と呼ばれた住宅の頂点であるとともに、遠藤新が設計した住宅の代表作でもあるのが、この葉山 加地邸です。
*「加地邸をひらく – 継承をめざして」井上祐一 より
写真 (C)Kanako Furune
建物・建具(窓や扉)・家具・照明など統一してデザインする「全一」という加地邸のコンセプトを、リレーコラムで紹介します。
参考文献
*加地邸をひらく – 継承をめざして(監修:加地邸保存の会、発行:一般社団法人 住宅遺産トラスト)
*葉山加地邸 The archives of HAYAMA KACHI-TEI(オーナー作成)
加地邸コラム 目次
1. 建築のエッセンス編
2. 照明編
3. 大谷石 前編
4. 大谷石 後編
5. ポートレート撮影編
<ご紹介した貸別荘>
葉山 加地邸
住所:神奈川県三浦郡葉山町
利用日数:1泊〜
最大定員:6名
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